アップスアカデミーは、1984年以来、日本における演技の向上に努めてまいりました。今後もさらなる技術・表現力の向上に向けて、様々な演技ワークショップを開発してまいります。

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2023年 春の特別ワークショップ ジャクリーン・ルセッティクラス レポート

2023年 春の特別ワークショップ ジャクリーン・ルセッティクラス レポート

日程:2023年5月10日~6月18日 全12回

講師:ジャクリーン・ルセッティ
俳優・演出家・映画監督・演技指導者としてドイツを中心に活躍
サブ講師:米倉リエナ
ニューヨークを中心に女優として活躍し、日本人女性初のNY アクターズ・スタジオ正式メンバーとなる。演出家としても活躍

チェーホフ戯曲に挑戦

 今回の特別ワークショップでは、ドイツ人演技講師のジャクリーン・ルセッティさん(以下、ジャッキー講師)を招いて、ロシアの劇作家マイケル・チェーホフの戯曲に挑戦しました。以下の4作品を混ぜ合わせたコラージュ作品を演じました。

1. かもめ
2. 三人姉妹
3. ワーニャおじさん
4. 熊

 初日にジャッキー講師より今回のワークショップでの狙いの説明がありました。

・チェーホフ作品は役作りが自由だということ。皆さんに自由に役作りをして欲しい。
・チェーホフ作品は感情表現が多い。なので、あまり感情表現をしないと言われている日本人が演じる事に意味がある。

というものでした。

各キャストのキャスティングが決まると早速本読みが始まりました。印象的だったの
は役者の椅子を横一列に並べて行ったことです。
『とにかく台詞を耳で聞いて』
『自分の役が直接関与していない他の役の台詞でも役を通して聞き、どう感じるか』
を大切にしながら、本読みを行っていきました。 

アニマルエクササイズ

 本読みをしていく中で、『日本語は抑揚が少ない言語。アニマルを取り入れてより表現の幅を広げたい』とジャッキー講師が言い、アニマルエクササイズに取り組みました。役者1人1人に、自分の役が動物だったら何か?と課題を出し、各々でその自分の思う動物を自由チョイスし、リサーチしてきてもらい、各々で動物としての行動をしてもらいました。4本足の動物を選んだ人は実際に4本足で歩き、鳥類を選んだ人は空を飛ぶイメージで行動していきます。その時の大事なポイントは鳴き声を出す事。行動しながら他の動物と近づいたり、衝動があれば、鳴き声を大きく出すように指示されます。動物の呼吸も大事なポイントでした。また、動物の鳴き声を大きく出してから、それぞれの役の台詞を喋るトレーニングもしました。注意点は鳴き声と台詞で声を分けない事。その後、稽古が進んでいく上で、役のリアクションの時にも鳴き声を出すよう指示がありました。そうする事により、人間とは違う動物の本能的な部分が膨らみ、役者の固定概念のようなものが取り除かれ、段々と表現の幅が広がっていくのを感じました。

アーキタイプ

 ある時、アーキタイプという、役作り方法の説明がありました。スイス人の心理学者カール・グスタフ・ユングの心理学より着想を得て、ジャッキー講師自身が作り出した方法だそうです。人は皆、誰もが生まれながらに4つの原形を持っていて、それが育ってきた環境によって、どれか1つの原形が大きくなるとのこと。それを役を通して当てはめていきます。その分かれている4つの原形は、

・水(男:ラヴァー)(女:ファストネイキングウーマン):恋愛に生きる人
・火(男:ウォーリアー)(女:ヒロイン):戦う人
・土(男:キング、ファーザー)(女:クイーン、マザー):家庭的な人
・風(男:ワイズマン)(女:ワイズウーマン):賢い人

これらのアーキタイプを取り入れて、役作りのアプローチが進んでいきました。非常にユニークなもので、非常に興味深いものでした。

また、ジャッキーは『チェーホフの作品は役作りが自由』と話し、役の台詞や行動もそうですし、自分の役は小道具を何を持っているか?を役者に自分で考えさせ、それぞれが持ち込んだものを積極的に採用しました。役者の役作りでの過程を尊重するスタイルで、参加者の方々も自分の役を深める機会にとても恵まれていたと思います。 

「第4の壁」

 そして、一番面白かったのが、「第4の壁」というエクササイズです。
まず、役者をスタジオの壁に向かって座らせ、自分の台詞を一つをチョイスします。
『相手役が自分にとってどういう存在なのか、シーンの中で感情につながる人を選んで。』
と実際に相手役に近い自分と親しい関係の対象を父・母・子・犬など具体的に設定します。その相手に向かって、台詞を言っていくというエクササイズです。よりプライベートな相手をチョイスすることによって、役者の心が自然と動き、感情が溢れ出していく姿を見ました。

ワークショップの内容はこちら 

参加者からのコメント

15年間リザルト演出の現場に慣れ過ぎて、監督からの指示が無くともリザルトをやろうとする自分に嫌気がさしていました。久しぶりにアップスアカデミーのワークショップを受けたのは、そんな凝り固まって俳優としての喜びを失った自分を生き返らせたかったからですが、求めていた通り、楽器の錆がとれました😆
これはジャッキーさん、リエナさん、アシスタントとクラスのみなさんが「自分のためにやって良いよ」と許してくれていると感じていたから達成できたことだと思います。
他のワークショップでなくて、アップスアカデミーで受けたのは、どこか「みんな許してくれるだろうな」と甘えていられたからです。お陰様で「好かれよう・評価されよう」と求める自分を少し捨てられました。ありがとうございます。

・ジャッキークラスを受けて良かったこと
①原型という役の捉え方を知ることが出来たことは大変刺激になりました。
演じる時にその概念がどう使えるのか?と分からずにはじめましたが、キャラクターデザインの段階でそのイメージがあると、キャラクターの目指す線路の様な安心感や気付きがあり、キャラクターを深める道標になることに気付きました。

②コンテンポラリーダンスを観る様な、演技の自由さ・可能性を感じました。
映像現場の多い私には、現実的な日常的なリアリティ・カジュアルさを求められることが多く、想像力が縮こまる感覚に陥ります。時間も空間も超越した作品のテイストに、はじめは戸惑いましたが、とりあえずジャンプインすることで、想像力を掻き立てられました。自分の、人間の可能性に希望が持てました。

若い頃チェーホフが全然面白いと思えなかったけど、おじさんになって読んだら凄く面白かったですが以前はシェイクスピアの様にチェーホフを古典として捉えていましたが、チェーホフは現代劇なんだと思いました。

俳優・ウダタカキ

度々よくわからないこと、理解しきれない箇所があり、困惑したこともありますが、ジャッキーさんの誘導を果て、目的や感情のポイントを意識したトレーニングを実際にやってみると、不思議と湧き上がってくる能動的な身体の動きが生まれました。

ジャッキーさんの教えてくださるトレーニング方法は、今後も自分なりに役作りをする上で取り入れていけるものだと思います。

俳優・郷家こたろう

良かった事だらけでした。
エクササイズやアニマルのまま芝居をするなど、エネルギッシュに演技をする方法を教えてもらえて、とても楽しくて勉強になりました。
全12回もレッスンがあって、本当に舞台をひとつ経験できたようで、すごくいい経験をさせていただきました。ユングの元型を教えていただいた事は、私には衝撃的な役作りの方法で、その後自分でもユングの本を買って読んでいます。
キュートで明るくてエネルギッシュなジャッキー先生には本当に本当に感謝しております。またお会いしたいです。ありがとうございました!

俳優・町田ランコ

得るものがとても多いクラスでした。多様なキャリアやバックグラウンドを持つ共演者たちの個性を生かしながら役柄やセリフと融合させ、チェーホフの4作品をコラージュした自由で新たな作品に練り上げていくプロセスは、改めて演技の奥深さと楽しみを教えてくれました。ユングのアーキタイプ(元型)分類を使った役柄分析は、今後も演じるうえで非常に重要な指針となりました。
毎回、自分の演技力の足りなさを痛感しましたが、ジャッキーやリエナさんが正面から向き合ってくれ、的確な助言をくださいました。また、共演者それぞれが自由に新たな自分を見つけながらどんどん進化する様を目の当たりにできて、とても貴重な経験をさせてくださいました。 

 最後にオープンリハができなかったのはとても残念でした。状況が許せばもっと共演者の方々と意見や情報を交換する機会が欲しかったです。

俳優・K.H